移動販売のパン屋は儲かる?怪しい?必要な許可と備品を調査

移動販売のパン屋が儲かるかどうかは、一概には言えませんが、工夫次第で十分に収益を上げられる可能性を秘めています。

 

一方で、自宅店舗や固定店舗とは異なる特性と、それに伴う注意点も存在します。

移動販売のパン屋は儲かる?

収益モデルと変動要因

 移動販売パン屋の収益は、主に「販売価格」「販売量(客数×購入単価)」「原価率」「経費」によって、決まります。

 

  • 販売価格とパンの単価:

 

    • 一般的なパン屋さんと同じか、少し高めの価格設定が可能です。珍しいパンやこだわりの素材を使ったパンは高単価でも売れやすいです。
    • 客単価を上げるために、複数個購入したくなるようなセット販売や、ドリンクとのセット販売なども有効です。

 

  • 販売量(客数×購入単価):
    • 立地・出店場所: これが最も重要です。オフィス街、住宅街、イベント会場、商業施設の駐車場、道の駅など、ターゲット顧客が多く集まる場所を見つけられるかが鍵です。場所によって客層やニーズが異なるため、パンの種類も調整する必要があります。
    • 曜日・時間帯: 平日のランチタイム、土日のイベント、学校の送り迎えの時間など、特定の曜日や時間帯に人が集まる場所を狙うと効率的です。
    • 集客力: 口コミ、SNS、リピーターの確保が不可欠です。美味しいパンはもちろんのこと、販売員の愛想の良さや、清潔感のある車両も集客に繋がります。
    • 季節・天候: 天候に左右されやすいのが移動販売の弱点です。雨の日は客足が遠のき、売上が落ち込む傾向があります。

 

 

  • 原価率:
    • パンの原材料費(小麦粉、バター、牛乳、卵など)が主な原価です。一般的にパン屋の原価率は25%35%程度と言われています。
    • ロス(売れ残り)をいかに減らすかも重要です。移動販売は製造量を調整しやすい利点がありますが、人気を見極めるには経験が必要です。

 

 

  • 経費:
    • 車両費: 移動販売車(キッチンカー)の購入費またはリース費が最も大きな初期投資です。新車で数百万円、中古でも100万円以上かかることがほとんどです。
    • 燃料費: 毎日走行するため、ガソリン代や軽油代がかかります。走行距離が長いほど経費がかさみます。
    • 駐車場代・出店料: 出店場所によっては駐車場代や出店スペースの利用料が発生します。
    • 人件費: 一人で運営する場合は不要ですが、従業員を雇う場合は発生します。
    • 保険料: 自賠責保険、任意保険、PL保険(生産物賠償責任保険)など。
    • その他: 材料仕入れ費、包装資材費、水道光熱費(製造場所)、広告宣伝費、消耗品費など。

「儲からない」と感じる可能性のあるケース

  • 初期投資が回収できない: 高額な車両費用に見合う売上が上がらない。
  • 出店場所が見つからない/客足が伸びない: 安定した売上を確保できる固定の場所や、イベントへの出店機会が得られない。

 

  • 原価管理が甘い/ロスが多い: 材料費を抑えられず、さらに売れ残りが多くて廃棄ロスが発生している。
  • 労働時間に対する収入が少ない: 拘束時間が長く、肉体的な負担も大きい割に、手元に残る利益が少ないと感じる。

 

  • 天候や季節による売上変動が大きい: 悪天候が続き、売上が低迷する時期を乗り越えられない。

儲けるためのポイント

  1. 魅力的な商品開発: ターゲット顧客に合わせたパンの種類、季節限定品、SNS映えする見た目など、話題性のあるパンで差別化を図る。
  2. 出店場所の選定と開拓: 複数候補地をリサーチし、ターゲット層が多く、競合が少ない場所を見つける。商業施設や企業の敷地内、地域のイベントなど、積極的に営業をかける。
  3. 効率的な製造とロス削減: 売れ筋のパンを見極め、製造量を調整する。余ったパンは翌日販売せず、廃棄するルールを徹底するなど衛生面も考慮する。

 

  1. SNSでの情報発信: 今日の出店場所、おすすめのパンなどをリアルタイムで発信し、集客に繋げる。フォロワーを増やす努力も重要。
  2. 顧客とのコミュニケーション: 移動販売の最大の強みは、顧客との距離が近いことです。丁寧な接客、世間話、次回出店日の告知などでリピーターを増やす。
  3. 経費の徹底管理: 車両の燃費、出店料、材料仕入れなど、あらゆる経費を把握し、無駄をなくす努力をする。

 

  1. 差別化戦略:
    • 専門店化: 食パン専門店、メロンパン専門店、天然酵母パン専門店など、特化した品揃えで他との違いを出す。
    • 焼き立て提供: キッチンカー内で焼き上げることで、香りで集客し、鮮度のアピールをする。
    • 地域密着: 地域食材を使ったパン、地域のイベント限定パンなど、地元との連携を図る。

 

移動販売パン屋は、フットワークの軽さを活かして多くの顧客にアプローチできる反面、安定した収益を得るためには、周到な準備と継続的な努力が求められるビジネスと言えるでしょう。

移動販売パン屋は怪しい?

 「移動販売」という形態に対して、一部の人が「怪しい」という印象を持つことは残念ながらゼロではありません。

 

しかし、パン屋という商材であること、そして適切な運営を行えば、その印象は払拭できます。

「怪しい」と思われる可能性のある要因

  1. 固定店舗がないことへの不安: 「なぜ店舗を持たないのか」「何か問題があるのでは」と感じる人がいます。
  2. 衛生面への懸念: 食品を扱うため、車内での調理や保管方法について、衛生管理が不十分なのではないかと疑われることがあります。
  3. 品質への不信感: 低品質なものを安く売っているのではないか、などと感じる人がいるかもしれません。
  4. 突然現れる/消える: 定期的な出店場所や告知がない場合、一時的な販売で終わるのではないか、と感じさせる可能性があります。
  5. 不慣れな販売員: 愛想がない、質問にうまく答えられないなど、販売員の態度が悪いと「怪しい」印象につながります。

「怪しい」を払拭し、信頼を得るためのポイント

  1. 清潔感を徹底する:
    • 車両の清掃: キッチンカーの内外装を常にピカピカに保つ。特に、お客様から見える部分(陳列棚、窓など)は入念に清掃する。
    • 販売員の身だしなみ: 清潔なユニフォーム、帽子、マスク着用など、衛生的な服装を心がける。
    • 手洗いの徹底: 販売前に手指消毒を行うなど、衛生管理を徹底する姿勢を見せる。

 

  1. 明確な情報提供:
    • 許可証の提示: 営業許可証や食品衛生責任者の表示など、必要な許可証を分かりやすい場所に掲示する。
    • 出店場所・スケジュールの告知: 定期的な出店場所、曜日、時間帯を明確に告知する。SNSやウェブサイトで最新情報を発信する。
    • パンの原材料表示: 食物アレルギー対応や、こだわりの材料を使用している場合など、詳細な情報を表示する。

 

  1. 品質への自信とこだわり:
    • 試食の提供: 積極的に試食を勧め、パンの美味しさを体験してもらう。
    • 製法の説明: こだわりの製法や焼き方などを説明し、付加価値を伝える。
    • 品質管理: 温度管理、鮮度管理を徹底し、常に美味しいパンを提供する。

 

  1. 積極的なコミュニケーション:
    • 明るい挨拶と笑顔: お客様に親しみやすい印象を与える。
    • 質問への丁寧な対応: パンの種類や原材料、焼き時間など、お客様の質問に丁寧に答える。
    • リピーターを大切にする: 顔を覚えてもらう、世間話をするなど、顧客との信頼関係を築く。

 

  1. 地域に根ざした活動:
    • 地域のイベントへの参加、地元の食材を使ったパンの開発など、地域との連携を図ることで、地域住民からの信頼を得やすくなります。
    • 自治体や商店街のイベントに出店し、公的な場所での実績を作ることも有効です。

 

移動販売のパン屋は、固定店舗にはない自由なスタイルが魅力です。

 

その魅力を最大限に活かしつつ、お客様に安心感と信頼感を与えるような運営を心がければ、「怪しい」というイメージは払拭され、地域に愛されるパン屋さんになれるでしょう。

どんな許可が必要か

移動販売のパン屋さんを開業するには、いくつかの重要な許可と届出が必要です。

特に食品を扱うため、衛生管理に関する規制が厳しくなっています。

 飲食店営業許可(食品営業許可)

  • 最も重要: これがなければ食品を販売できません。
  • 管轄: 車両を拠点とする都道府県の保健所。ただし、出店する各都道府県でも営業許可が必要になる場合があります。複数の都道府県で営業する場合は、それぞれの管轄保健所に申請が必要です。

 

  • 取得の流れ:
    1. 事前相談: キッチンカーの設計段階で、管轄の保健所に相談に行きます。車両の構造や設備(給排水設備、手洗い場、換気扇、冷蔵庫など)が基準を満たしているかを確認します。自治体によって基準が異なるため、必ず事前相談が必要です。
    2. 施設基準のクリア: 保健所の指導に従い、車両を改修または製作します。
    3. 申請書の提出: 必要書類(営業許可申請書、施設の平面図、水質検査成績書など)を提出します。
    4. 施設検査: 保健所の担当者が実際に車両を検査し、基準に適合しているかを確認します。
    5. 許可証の発行: 検査に合格すれば許可が下ります。

 

 

  • ポイント: パンの製造場所も重要です。

 

    • キッチンカー内で焼き上げる場合: キッチンカー内で一貫して製造・販売するため、車両の設備基準が非常に厳しくなります。
    • 外部の製造場所で焼いたパンを販売する場合: 自宅や借りた工房でパンを焼き、それをキッチンカーで販売する場合です。この場合、パンを製造する場所(工房)で別途「菓子製造業許可」または「パン製造業許可」が必要になります。キッチンカー側は「飲食店営業許可(食品販売)」となります。一般的には、この形が多いです。

食品衛生責任者

  • 必須資格: 飲食店営業許可を得るためには、店舗(この場合キッチンカー)ごとに1名以上の食品衛生責任者の設置が義務付けられています。
  • 取得方法: 各都道府県の食品衛生協会が開催する講習会を受講することで取得できます。調理師、栄養士、製菓衛生師などの資格を持っている場合は、講習免除で資格を有しています。

公衆衛生法に基づく営業許可(露店営業許可など)

  • 出店場所によって必要: イベント会場や特定の公共スペースなどで販売する場合、別途「露店営業許可」や「催事営業許可」が必要になることがあります。これは、各自治体の条例やイベント主催者の規定によります。事前に出店予定の場所の管理者に確認が必要です。

道路使用許可(必要な場合)

  • 公道で販売する場合: 道路上で停車して販売行為を行う場合や、イベントで道路の一部を使用する場合などには、管轄の警察署に「道路使用許可」を申請する必要があります。ただし、一般的な移動販売は、私有地やイベント会場の敷地内で販売することがほとんどなので、不要なケースが多いです。

その他の届出

  • 税務署への開業届: 個人事業主として開業する場合、事業開始後1ヶ月以内に管轄の税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。
  • 青色申告承認申請書: 確定申告で税制上の優遇措置を受けたい場合は、「所得税の青色申告承認申請書」も提出します。
  • 保健所への変更届: 営業許可取得後に、屋号や車両の変更などがあった場合は、速やかに保健所に届け出る必要があります。

どんな備品が必要か

 移動販売のパン屋さんを開業するにあたり、キッチンカー本体以外にも、様々な備品が必要になります。ここでは主なものをリストアップします。

キッチンカー本体(車両)

  • 新車または中古車: 予算に応じて選択。内部の設備やサイズも重要です。
  • 冷凍冷蔵設備: パンの材料や、販売するドリンクなどの保管に必須。保健所の基準を満たすものを選びましょう。
  • 給排水設備: 衛生的な手洗い、食器洗浄、調理に使用する水を確保するための設備。シンクの数やタンクの容量も保健所の基準に合わせる必要があります。
  • 換気設備: 調理を行う場合は必須。
  • 調理設備:
    • オーブン: 車内で焼き上げる場合。ガスオーブンや電気オーブンなど。
    • 発酵器(ホイロ): パンの発酵に必要。
    • ミキサー: パン生地をこねるためのもの。
    • コンロ: 調理するパンの種類による。
    • 作業台: ステンレス製など、衛生的な素材でできたもの。
  • 発電機: 電源がない場所で冷蔵庫やオーブンを使用する場合に必要。

パン製造・販売に必要な備品(車内または工房)

  • 計量器: 材料を正確に計るためのもの。
  • 生地マット・麺棒: パン生地を扱うためのもの。
  • 型・天板: パンを焼くための型や、オーブンに入れる天板。

 

  • パン切りナイフ: パンを切るための専用ナイフ。
  • パン陳列棚・ケース: 衛生的で、お客様が見やすい陳列ケース。飛沫防止の対策も必要です。
  • トング・トレー: お客様がパンを取るためのもの。

 

  • レジ・決済端末: 現金を受け取るためのキャッシュドロワー、クレジットカードやQRコード決済対応の端末。
  • 金庫: 売上金を保管するためのもの。

 

  • 包装資材: パン袋、紙袋、箱など。ロゴを入れるとブランディングになります。
  • 消耗品: 手袋、マスク、アルコール消毒液、洗剤、スポンジ、ペーパータオルなど。
  • 消火器: 火を使うため必須。

 集客・運営に必要な備品

  • のぼり・看板: 遠くからでも目立つように、パン屋であることをアピールする。
  • メニューボード: 販売しているパンの種類と価格を表示。手書きでおすすめを書き込むのも良いでしょう。
  • チラシ・ショップカード: 次回出店場所の告知や、SNSのアカウント情報などを記載。

 

  • SNS発信用のスマートフォン・カメラ: 美味しいパンの写真を撮り、リアルタイムで情報を発信するために。
  • 椅子・テーブル(簡易的なもの): 必要に応じて休憩スペースを設ける場合。
  • ゴミ箱: お客様用のゴミ箱。
  • 清掃用具: 車内や周辺を清潔に保つためのほうき、ちりとり、雑巾など。

 

    これらの備品は、開業当初は中古品で揃えたり、レンタルを利用したりするなど、予算に合わせて工夫することが大切です。特にキッチンカーは高額な投資となるため、機能性と予算のバランスをよく検討しましょう。

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